【1月】睦月(むつき)~松に鶴~

旧暦の由来

 お正月に家族と仲睦(なかむつ)まじく(互いに親しみ合って)過ごすことから「睦(むつ)み月→睦月(むつき)」になりました。

f:id:mitasyn2001:20190909212757j:plain

札の解説

 鶴は本来、湿原や平地などに生息する鳥なので松に止まることはありません。では、なぜこの札の鶴は松に止まっているのでしょうか?実はこれは実際の様子を描いたのではなく、中国思想の影響でこのようになっているようです。古くから鶴は、その白い羽と老人の白髪をかけて、松・亀に続く長寿の象徴とされていました。「鶴は千年、亀は万年」ということばも、実際に千年も鶴が生きるのでなく、そういった中国思想の影響だと考えられています。

 また、松についても、冬でも緑が生い茂る常緑樹という性質から、『不老長寿』の象徴とみなされるようになりました。一月の札が「松と鶴」と言われるのは、そうした縁起担ぎのニュアンスが込められていからなんですね。

 ちなみに、短冊の「あかよろし」は「明らかに良い、実にすばらしい」の意味です。「あのよろし」ではないので注意して下さい。「の」の上に「丶」をつけて「か」と読む、いわゆる「変体仮名」です。

 

ことばあそび

 松の「ま」と鶴の「る」が尻取りのかたちになっています。

 

月札の覚え方

市()松模様、門松(月)と覚えて、松の絵柄=月と連想しましょう。


関連知識

 1月(睦月)の元旦の行事であるお正月は、新年を新しく迎える日というだけでなく、実りと健康をもたらす歳神様(としがみさま)を迎え入れる日という意味合いもあります。ですので、お正月に食べる料理や・飾りなどにはすべて歳神様が関係してきます。では、順を追ってみていくことにしましょう。

人日(じんじつ)の節句 ~1日ではなくなぜ7日?~

 五節句の一つである、人日(じんじつ)の節句(七草の節句)は1月7日に執り行なわれます。でも、なせ7日なんでしょうか。これには中国の風習が関係しています。

 古来中国では、1日から7日までのあいだの日に動物をあてはめて吉凶を占いました。それぞれ鶏(1日)、狗(2日)、羊(3日)、牛(4日)、猪(5日)、馬(6日)、人(7日)で、7日に人を占うことから、人の占う日=人日(じんじつ)となったそうです。また、この日は無病息災を願って七草粥を食します。春の七草については以下の通りです。

▼春の七草▼

 ◯せり ・・消化促進作用を持ち、競争に競り(せり)勝つという意味合いがあります。

 ◯なずな ・・内蔵機能強化の効能があり、汚れをなでて除くという意味で用います。

 ◯ごぎょう ・・吐き気止めに使われ、仏体としての意味があります。

 ◯はこべら ・・利尿作用があり、繁栄がはびこるという意味合いで用います。

 ◯ほとけのざ ・・歯の痛みによく効き、名前の通り仏の安楽座という意味です。

 ◯すずな ・・かぶのこと。消化を高め、純真・純白で汚れないという意味合いを持ちます。

 ◯すずしろ ・・大根のこと。胃痛や神経痛に効果があり、消化を高め、鈴が神を呼び寄せるという意味があります。

 

おせち料理 ~縁起良き食材たち~

 季節の節目である節日に神様にお供えする節供(せちく)が名前の由来で、おせちは一年のうちの一番の楽しみでもあります。そんなおせちの食材には、それぞれ深い意味合いがあるので、何を意味するか考えながら作ったり買ったりすると面白いかもしれません。

▼祝い肴三種▼

 ◯数の子 ・・小さな卵がたくさん詰まっていることから、子孫繁栄の縁起物として食べられます。ちなみに、数の子はニシンの卵です。

 ◯ごまめ(田作り) ・・カタクチイワシの幼魚を甘辛く煮込んだ佃煮をさします。獲れすぎて余ったイワシを田畑の肥料にしたら、たわわに稲穂が実ったので、豊作祈願・五穀豊穣として用いられるようになりました。

 ◯黒豆  ・・厄除けや長寿祈願の意味合いと、豆の読み=「まめ」から、面倒くさがらず細かいところまで気配りをきかしてよく働くの意味があります。

▼口取り▼ 

 ◯かまぼこ ・・半月状のかたちに日の出を連想することから、新年を祝うのにふさわしいとされています。紅白のかまぼこは、赤が魔除け・白が浄化で縁起がいいようです。

 

 栗きんとん ・・きんとんは漢字で書くと金団子となるように、金運・財運の縁起物とされています。

 

 ◯伊達巻き ・・巻物に似ていることから、学問成就・教養の向上の縁起物とされています。

 

 お多福豆 ・・その名の通り、幸福が多くやってくるようにという願いが込められています。


 昆布巻き ・・昆布をよろこぶにかけています。

▼焼き物▼ 

 海老 ・・ひげが長く腰が曲がっている外観が老人に見えることから、それくらい長生きしたいという願いが込められています。

 ◯ブリ  ・・大きさによって名前の変わる出世魚なので、立身出世を願う縁起物とされています。

 鯛 ・・その名の通り、目出鯛(めでたい)ので縁起がよいとされています。また、名前だけでなく外見的にも色・形が華やかなことも縁起物の代表格と言われる所以です。

▼煮物・酢の物▼ 

 くわい ・・食べるのは芋の茎塊の部分です。この時期のものは芽が出てるので芽出たい(めでたい)とされています。

 ◯れんこん ・・穴が数多く空いているので、その先を見通すことに繋がると考えられています。

 ◯紅白なます ・・大根の白と人参の赤が、縁起のよい水引の紅白を表現しています。

 

門松 ~神様専用のみちしるべ

 お正月に家の玄関に飾られる門松は、もともと、豊作・健康の神である歳神様(としがみさま)が家にやってくる際に迷わないようにする、目印・道標としての役割がありました(松で歳神様を待つ)。現在では松ではなく竹が用いられますが、これは室町時代に、長寿の象徴として松と一緒に竹を飾ったことが由来だそうです。

 そんな、正月かざりの門松は、正月はじめの12月13日からの「松の内」の間に設置し、片付けるのは1月7日とされています。その日にどんど焼きで焚いて歳神様を天に見送って、かざり道具を祓い清めるのです。

 

しめ縄 ~天照大御神をしめだそう~

 しめ縄は、神の世界と現世界を隔てる結界としての役割を担うとされています。ちなみに、相撲取りのしめ縄は土俵を清め祓うためで、正月飾りのしめ縄も、場の浄化と場の結界という両方の意味があります。では、なぜそもそも「しめ縄」なんでしょうか?これには次にあげる日本神話が関係しています。

 むかしむかし、天照大御神(アマテラスオオミカミ)という太陽の神さまと弟の須佐之男命(スサノオノミコト)というものがいました。

 ある日、弟の須佐之男命の悪行・非行に憤慨した天照大御神は、天の岩屋に隠れてしまいます。

 ところが、地上は天照大御神の太陽の力によって明るく照らされていたため、天照大御神が隠れたことで突然真っ暗闇の世界に・・。

 困り果てた神々たちは、何とか天照大御神を岩屋の外におびき出そうと考え、岩戸の前で天宇受賣命(アメノウズメノミコト)に淫らな踊りをさせてバカ騒ぎします。

 「地上は暗闇で大変なはずなのにどうしてそんなに楽しそうなんだ?」と不思議に思った天照大御神が岩屋の外に出ると、神々たちは今かといわんばかりに岩戸をしめ縄で塞いでしまいました。

 これがしめ縄が結界といわれる所以です。つまり玄関にしめ縄を飾ることで、お正月に神さまが外に出れず、なかなか帰れなくなる(=長くいてもらう)意味合いに加えて、外から家の中に不浄なものが入ってくるのを防ぐ境界の役割も果たしているのです。

 

鏡餅 ~神器への見立て~

 円形で平べったい二つのお餅が銅鏡に似ていることがその名の由来で、三種の神器の鏡にあやかる意味合いも込められています。ちなみに、上に乗せるみかん(だいだい)は、代々(だいだい)子孫繁栄するようにという願いがこめられています。

 三種の神器とは知恵の神器「八咫鏡(やたのかがみ)」、慈悲の神器「八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)」、勇気の神器「草薙剣(くさなぎのつるぎ)」の三つで、このうち、八咫鏡は伊勢神宮(三重)に、草薙剣(天叢雲剣)は熱田神宮(名古屋)に祀られ、八尺瓊勾玉は皇居御膳に奉安されています。

 

お年玉 ~本来お金はあげない?~

 お年玉というと、今では当然のものとして正月にあげるお金のことをさしますが、もともとは歳神様の御魂(み玉)とお米の御魂(稲魂)の宿った鏡餅を、丸くちぎって分け与えることを年玉とよんでいたそうです。それが、室町時代あたりから茶碗や扇などの物品を贈るようになり、現代では現金を子どもに贈るようになりました。

 

まとめ

 いかがでしたでしょうか。「知っていたぞ」というものもあれば、「意外だった」というものもあったかと思われます。正月に関する知識・雑学を学ぶと、派生的に暮らしのしきたりや、縁起物・日本神話などを同時に学べるのでとてもためになりますね。今回紹介できなかったものもまだたくさんあるので、気になる方は是非自分で調べてみて下さい。